マニュアル化されたサービスに慣れてしまった日本人

ちんどんで始まる筒井康隆の「昔はよかったなあ」、今から20年以上前に発売された新潮カセット文庫。

筒井康隆本人が朗読するもので、その頃、大の筒井ファンであった私は、テープが伸びきるほど聞いたものでした。

無題「昔はよかったなあ~~~」

銭湯には、薬油などとゆうものがあってな、ここだけは男女混浴だった。

あふふふふ

女子学生は皆袴などを穿いておってな、国辱だなんて言われおったものだが、

ん~~ 宝塚歌劇の娘どもが流行らせたらしい、ちょうど葦原邦子などという

ものがモンパリーというグランドレビューなどというもの上演しておった。

女などというものは、そのころ滝転びとゆうてな、下女と妾を兼ねたものを

雇って手当がその頃3円から5円くらいのものだった。と続く。

痴呆気味の老人が、昔のことをアルコトナイコト、ほとんどナイコトを若者らしき者に永遠と話すのです。
なんともバカバカしいストーリー、でもこれがまた面白いのです。これだけ出鱈目を連発されると、
なぜかつい、うなづいてしまうのが不思議でした。

今日のテーマは、マニュアル化されたサービスに慣れてしまった日本人です。 皆さんはここで、はあ、「昔はよかったな」などと、と持ち出すからにはマニュアル化されたサービスを、否定または非難するのだとお思いでしょう。 でも今日はちょっと違うのです。

私の子供のころ、40年から50年前は、身近にマニュアルなどほとんど存在しませんでした。 駄菓子屋のおばあさんは、勘定を間違えることもありましたし、もちろんレシートなどもらえませんでした。 酒屋のおばさんなどいくら呼んでも出て来ませんでした。そして無愛想でした。 そして、それが当たり前だったし、それが普通だったのでした。

現在はどうでしょう。

コンビニ入れば、まず自動ドアが反応しピンポンとなり、次に一斉に「いらっしゃいませ」と声を掛けるてくれます。
銀行に行けば呼び出されるとき「○○様」と様をつけて呼び出して下さいますし、おまけに笑顔も忘れません。 まあ、今時何処に行っても、ミスはないし、心地よく対応してくれます。

大手のスーパーも、接客の教育が進んでおり、挨拶も両手をお腹のところで重ね、きちんと挨拶してくれます。

それに、もちろん飲食店業界も負けてはいません。 大手居酒屋チェーン・ファミリーレストラン・ファストフードなど、ありとあらゆる所でマニュアル化したサービスにより心地よく、間違いのないサービスを受けることができます。

愛想が悪いよりは、誰でも愛想のいいほうが気持ち良いのです。

でもたまに、なぜか筒井康隆の「昔はよかったな」という朗読の声が聞こえてくるのです。内容はナンセンスの連発なのでどうでもいいのですが。

マニュアルのおかげでこんなに便利になり、心地よく暮らせるようになったのにどうしてでしょう。

小林薫今から35年ほど前のお話です。 私は、18から30才までプロの演奏家(トロンボーン奏者)として仕事をしていました。 神奈川県川崎市での仕事が月に二度ほど有り、その時よく行った食堂を思い出します。 その食堂は、漫画でお馴染みの「深夜食堂」の様なところで、川崎駅の近くの雑居ビルの1階にありました。 店主は強面ですが、無口で、黙々と仕事をする気持ちの優しい人でした。 私は、いつもの様に卵焼きと焼き魚の定食でした。

そのあと、サラリーマンらしき、常連ではなさそうなお客が入ってきました。 そしていきなり、ビールとトン汁定食(よく覚えていませんがそんな感じでした)と、そこまではよかったのですが、 だんだん雲行きが怪しくなってきました。

客が混んでいたのと、ご主人1人で切り盛りしているため、5分たっても10分たってもトン汁どころかビールも出て来ません。
サラリーマンらしき男が、突然立ち上がり、大声で「ビールぐらい出せよ」と、 それに対しご主人が、顔色一つ変えず言ったのは、「順番」と一言。
軽く交わされたサラリーマンは、黙って食べずに帰りました。

阿部夜朗原作の漫画で、4年ほど前にテレビドラマ化された「深夜食堂」のマスター役を演じた、小林薫と重なるもがありました。 この店には、マニュアルなどありませんし、待たされるのが当然、今の様なサービスを期待してくる客はいなかったのです。 いつもの、美味しい定食を食べたくて、ただじっとっ待っているのでした。

今は探してもなかなかこういう食堂は無くなりました。 お解かりの様に、そのような接客ではお客は入りませんので、そういう店は淘汰されていったのでしょう。

今はビールなどすぐ出てくるし、料理もすぐ出てきます。 注文を受けてから卵焼きなど焼きません。注文する前にもう出来てます

大手の飲食店チェーンが資本力にまかせ、どんどんお店を増やしています。 働いている人の多くは、フリーターや学生、そしてマニュアルが大活躍、若いので覚えも早くすぐ使えます。 我々とは雲泥の差があります。

そして、大手の飲食店チェーンに客を奪われ、小規模店舗の経営はますます厳しくなる一方です。

でも、前向きに考えましょう、マニュアル化されていない、味のあるお店を求めるお客もいるのです。
我々も客として本当にいいお店を残すためにも、心の触れ合う新宿四丁目の「深夜食堂」のようなお店にも 行きたいものです。

私も昔からマニュアルに対応できない生き方の不器用な人間です。 そして私は糖尿病で糖質制限食実践中なので炭水化物は食べられません。 でも、本当は深夜食堂のような、「めしや」がやりたかった。

menyu-初めての方の為に深夜食堂とは、
新宿四丁目にある、 営業時間が深夜0時から朝7時ごろまでという 「めしや」
「いらっしゃい、メニューは豚汁だけ、あとは出来るものなら何でも作るよ」という粋な店。

番組で出された炭水化物は、

売れない演歌歌手が食べた、炊き立てのご飯に削りたての鰹節と醤油をかけた「猫まんま」
料理評論家が食べた、あったかいご飯にバターを乗せ、ほんのちょっと醤油をかけた「バターライス」
アラフォー女性三人が食べた「お茶漬け、サケ・梅・タラコ」
AV男優が食べた痴呆になったお袋さんの思い出の「ポテトサラダ」
勝てなかったボクサーと母子の「勝丼」と最後の「親子丼」
新聞配達少年の叶わぬ恋「卵サンド」
悩める女優が食べた「ソース焼きそば目玉焼き乗せ、四万十川の青海苔をふりかけて」
悩める女優の父親(ホームレス)がマスターの財布を拾い、お礼にご馳走された「豚汁定食」
警察に追われるチンピラが息子と食べた、「海苔を乗せたインスタントラーメン」

どれも炭水化物たっぷりで美味しそうでした。 番組は30分と短いものでしたが、内容もよく出来ており、すべて泣けました。泣いた後はお腹がすきます、放送時間もやはり深夜でしたので、見終わった後によくコンビニに炭水化物を買いに行ったのを思い出します。

それでは結論です。

マニュアル化されたサービスは大賛成です。不愉快な対応を受けたり、間違えたりされるよりはましです。
そして、マニアルに慣れてきたら、また余裕ができたら、心を込めた挨拶や対応ができるように、努力又は指導すればいいでしょう。
以前に比べると一部のコンビニを除き、本当に良くなったなというのが実感です。

それから、マニュアル化されていない、味のあるいいお店も大事にしたいものです。
不器用で時代には乗れないものの、一生けんめい、ひたむきに商売している方が沢山います。
そういうお店が無いと、どこで食べても同じ味や接客となりつまらないのです。
最初は愛想が悪くても、何度か通ううちに、お互いに心が通じ、マニュアルでは味わえないものが得られるはずです。
長文になりました、ご覧いただき感謝します。

 

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